山田養蜂場運営の研究拠点「山田養蜂場 健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。
古くから、天然の甘味料として広く愛用されているはちみつ。伝承的には抗菌作用などが注目されていますが、近年、科学的な分析が進み、はちみつの長所や魅力が改めて明らかになりつつあります。
ここでは、信頼性のある科学的な手法で行なわれた最近の研究成果を、ダイジェスト版でお伝えします。
「低GI」という言葉をご存じですか?「GI値」とは、「グリセミック・インデックス」の略。食品ごとの血糖値の上がりやすさを示したもので、GI値が低いほど、血糖値が上がりにくく健康によい食品とされています。また、「II値(インスリン・インデックス)」という指標もあり、これも低いほど、糖の代謝に必要なインスリンホルモンを過剰に分泌させない、よい食品とされています。甘みの強いはちみつは高GI食品(血糖値が上がりやすい)というイメージがあるようですが、実際のところはどうなのでしょうか。
※この研究結果は糖尿病患者の方にはちみつをお勧めするものではありません。
本研究では、健康な成人男女(21~73歳)に、異なる7種類のはちみつを摂取させ、摂取前後の血糖値とインスリン値からグリセミック・インデックス(GI値)およびインスリン・インデックス(II値)を算出することで、はちみつがヒトの血糖値およびインスリン分泌に与える影響を評価しました。
その結果、GI値、II値 ともに、7種の中ではアカシアはちみつ(国産、ルーマニア産)が最も低い数値を示しました。
一方、ブドウ糖と比較した場合、はちみつでは血糖値が元に戻りやすいという結果も得られました。
また、はちみつのフルクトース含有率とII値とは負の相関を示すこともわかりました。アカシアはちみつ(国産、ルーマニア産)が血糖値の上昇やインスリンの分泌を最も効果的に抑制したのは、試験したはちみつの中で、フルクトース含有率が最も高いためと考えられます。
おもなはちみつのGI値、II値
国産アカシアはちみつ摂取後の血糖値推移
(山田養蜂場 健康科学研究所調べ)
歯垢の状態を試験管内で再現する方法を用いて、さまざまな種類のはちみつによる作用を調べました。歯石を構成するリン酸カルシウム形成(特にハイドロキシアパタイト(HAP)の形成)速度を数値化する方法により、はちみつによる歯石形成抑制の程度を代表的な抗歯石剤である「エチドロン酸」と比較しました。
その結果、図の緑字で示した10種類のはちみつ(甘露、ローズマリー、ペーターソンカース、ユーカリ、ラズベリー、ベニバナ、ペパーミント、コーヒー、レンゲ、百花)に、HAPの形成を遅らせる傾向(歯垢から歯石をつくりにくい)が見られました。その歯石予防効果は、歯磨き剤に使用されているエチドロン酸と同程度だと期待されるものでした。
なかでも、暗黒色や褐色など濃い色のはちみつはHAPの形成に対する抑制力が強いという傾向が示され、暗色や褐色のはちみつには、特に歯石を抑制する効果があることがわかりました。
今回、10種類のはちみつにおいて有用性が見られ、歯磨き粉やマウスウォッシュ(洗口剤)に適している素材となる可能性が示されました。
(J Periodontal Res. 2008 Aug;43(4):450-8. )
はちみつの抗インフルエンザウイルス活性を調べるため、培養細胞に、レンゲ、アカシア、甘露、ソバ、およびマヌカを蜜源としたはちみつをさまざまな濃度で加えると同時に、インフルエンザウイルスを感染させました。そして、各はちみつのIC50(※)を算出しました。その結果、試験したはちみつの中で、マヌカはちみつの抗インフルエンザウイルス活性が最も高いことが分かりました。
※ IC50…50%感染阻害濃度。培養細胞へのウイルス感染を50%阻害する濃度。この値が低いほど阻害活性が高い。
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(Arch Med Res. 2014 Jul;45(5):359-65.)
マヌカはちみつに高濃度に含まれ、抗菌活性を持つ物質として知られるメチルグリオキサールが、インフルエンザウイルスに対して抗ウイルス活性を示すか調べるため、培養細胞にメチルグリオキサールを添加し、さらにインフルエンザウイルスを感染させました。その結果、メチルグリオキサールの量が増えるほど、ウイルス感染による細胞死が抑制され、生存する細胞の割合が増加しました。これにより、メチルグリオキサールが抗ウイルス活性を持つことが明らかとなりました。
※ 出典より引用改変
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(Arch Med Res. 2015 Jan;46(1):8-16.)
シート状に培養したヒト角化細胞に引っかき傷をつけ、はちみつを添加しない状態、あるいは、アカシアはちみつ、ソバはちみつ、マヌカはちみつをそれぞれ添加した状態で培養しました。対照として、強力な創傷治癒促進剤である血小板溶解液を添加しました。そして、傷をつけた直後と培養後の傷の幅から再上皮化(※)率を算出しました。再上皮化が起きるほど傷の幅が狭くなるため、再上皮化率を高める成分は、再上皮化を促す働きを持つと判定できます。その結果、すべての蜂蜜が、無添加の状態よりも著しく高い再上皮化率を示しました。
※ 再上皮化…傷に面した上皮細胞(体の表面の細胞)が移動して傷をふさぎ、元の状態へ戻そうとする過程のこと。
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(Wound Repair Regen. Sep-Oct 2012;20(5):778-85.)
さらに、シート状に培養したヒト線維芽細胞に引っかき傷をつけ、はちみつを添加しない状態、あるいは、アカシアはちみつ、ソバはちみつ、マヌカはちみつをそれぞれ添加し培養しました。そして、引っかいた直後の傷の幅と培養後の傷の幅から、傷口の塞がった割合(創傷閉鎖率)を算出しました。
その結果、すべてのはちみつが無添加の状態よりも著しく高い創傷閉鎖率を示し、特に、アカシアはちみつとソバはちみつは、傷口を塞ぐ作用が強いことが分かりました。
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(Burn Trauma. 2013;1(1):32-8.)
これまでの研究によって、アカシアはちみつとソバはちみつが、皮膚の表皮と真皮の両方の細胞に作用して高い創傷治癒作用を発揮することが示されました。
さらなる研究によって、はちみつの創傷治癒作用は、以下のメカニズムによって発揮される可能性が示されています。
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(Int J Mol Sci. 2019 Feb 11;20(3):764.)
この研究は、蜂蜜の蜜源の違いによる生物活性の違いを調べるために行われました。
試験に使った蜂蜜サンプルは、ルーマニア産の6種(アカシア、ヒマワリ、甘露、百花、ライム、シーバックソーン)です。
抗酸化力が、もっとも高いのは甘露蜂蜜でした。蜂蜜の総フェノール量と、抗酸化力の強さに相関があり、その違いは蜜源植物によるものだということが明らかとなりました。
(Spectrochimica Acta Part A., 100, 149-154, 2013)
ルーマニア産のはちみつ6種(アカシア、ヒマワリ、甘露、百花、ライム、シーバックソーン)の栄養成分の違いを調べました。
その結果、蜜源植物によって、タンパク質量、遊離アミノ酸量、総フェノール量に違いがあることがわかりました。
(Spectrochimica Acta Part A., 100, 149-154, 2013)