目白大学耳科学研究所クリニック院長 坂田英明[さかた ひであき]
1962年千葉県生まれ。日本聴覚医学会評議員、日本耳科学会代議員、NP0法人第8神経を考える会代表
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実際に音がないのに、何かが聞こえるように感じる「耳鳴り」。聞こえ方やその程度は、人によって異なりますが、症状が悪化すれば、家事や仕事など日常生活に重大な支障をきたしかねません。そんな耳鳴りに悩む人が、近年の高齢化やストレス社会を反映して増えてきました。その原因は、耳の病気や脳の障害・自律神経の乱れなどさまざまですが、原因がわからない耳鳴りも少なくありません。そんな辛い症状を取り除き、支障のない生活を送るにはどうしたらよいか、耳鳴りに詳しい目白大学耳科学研究所クリニック院長の坂田英明さん(51)にその治療法や耳鳴りとの上手な付き合い方などについて伺いました。
目白大学耳科学研究所クリニック院長 坂田英明[さかた ひであき]
1962年千葉県生まれ。日本聴覚医学会評議員、日本耳科学会代議員、NP0法人第8神経を考える会代表
最近、耳鳴りに悩む人が増えていると聞きました。
うちの外来には国内はもとより、海外からも患者さんがやって来られます。耳鳴りの性質には多くの種類があり、その苦痛度や生活支障度などから重症度を分類しています。中でも最近は、なかなか治りにくい難治性の耳鳴りが増えてきました。耳鳴りには、本人にしか音が聞こえない「自覚的耳鳴り」と、他人にも聞こえる「他覚的耳鳴り」があり、耳鳴りを訴える患者さんの多くは、自覚的耳鳴りです。
一方、他覚的耳鳴りは体の内部に音源があるため、聴診器を当てれば周囲の人も音を聞くことができます。また、音によって「ブーン」「ボー」「ゴー」というような低い音の「低音性耳鳴り」と「キーン」「ピーン」といった金属音や電子音に似た「高音性耳鳴り」があります。
耳鳴りは、なぜ起こるのですか
私たちが普段、感じる音は、「空気の振動」であり、耳鳴りは耳のしくみや働きと密接に関わっています。耳は外耳・中耳・内耳の3つの部分からなり、外から入ってきた音の振動は、外耳、中耳を経て、内耳に送られ、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」という器官で電気信号に変えられたあと、神経(蝸牛〈かぎゅう〉神経)を通って大脳に送られ、初めて「音」として認識されます。耳鳴りは、このルートのうち、内耳に「異常興奮」が生じて起きると考えられます。しかも、難聴やめまいと一緒に起きることが多く、実際耳鳴りを訴える患者さんの8割に一定の難聴がみられます。
原因は何ですか
耳鳴りは、いろんな病気が原因となって起こります。例えば、耳の病気や神経・脳の障害、全身疾患や薬物中毒、過剰なストレスなどですね。このうち、最も多いのが耳の病気によるもので、中でも内耳性の耳鳴りは全体の80?90%を占めるといっても過言ではありません。内耳性の病気といえば、耳鳴りや難聴、めまいを繰り返す「メニエール病」や、ある日突然発症する「突発性難聴」などが代表的なものです。また耳の中に虫やゴミが入ったり、耳垢が溜まっただけで耳鳴りになることもあります。耳に異常がなくても聴神経や脳に障害がある場合や糖尿病、高血圧症、動脈硬化症などの全身疾患、不眠などの睡眠障害、薬の副作用や毛染め剤の使用でも耳鳴りが起きることもあります。
疲労や寝不足、ストレスなども悪影響を及ぼす、といわれています。
その通りです。耳にかかわる症状の中でも、耳鳴りや、難聴、めまいで悩む人が少なくありません。こうした症状に影響を及ぼすのが疲労や寝不足、ストレスといってもよいでしょう。特に生活のリズムが乱れたり、疲れやストレスがたまっているときに、こうした症状が起きやすく、悪化するケースも少なくありません。中でも強いストレスを受けると自律神経が乱れ、時差ボケのような状態になって耳鳴りが起きやすくなります。それと、耳鳴りは生活習慣と関係が深く、例えば、騒音の激しい工場などで働いていたり、喫煙やカフェインの過剰摂取、毛染めや顎(がく)関節症、寝不足なども耳鳴りの危険因子となります。それに加え、低血圧やメタボ、アレルギーの人も発症しやすくなりますね。
では、耳鳴りがしたら、どうすればよいですか。
疲れや寝不足、あるいは体調を崩したときの耳鳴りは、そうした原因が解消し、症状が消えれば、医師の診察を受ける必要はないでしょう。また、コンサートを聴いた後などの一時的な耳鳴りなども一晩寝て治っていれば、特に心配はありません。問題は、耳鳴りの不快な症状が2週間以上続いたり、難聴や、めまいを伴ったときですね。この場合は、直ちに医師の診察を受け、適切な治療を受ける必要があります。耳鳴りも早期発見、早期治療が大切で、発症から2週間以内に治療することが大事です。1か月以上が経ったら症状は慢性期に入り、治療が厄介になるからです。
耳鳴りの主な原因が耳の病気だった場合、どんな手順で治療を行いますか。
うちでは、治療に先立って患者さんに問診票に細かく記入していただき、それに基づいて生活習慣の改善を徹底指導します。前述の通り、耳鳴りは普段の生活習慣と密接な関係があり、その改善なくして症状はよくなりません。それが済んだら聴力や耳鳴りの程度、性質、原因などを調べます。治療では、まず内服薬を投与し、改善が見込めなかったら、肩の筋肉に注射する「筋肉注射」を約週1回ずつ計4回打ちます。
症状は改善されますか。
約2割ほどの方に効果があります。それでも効果がなかったらステロイドを鼓膜に注射する「STT療法」(ステロイド鼓室内注入療法)に入ります。この治療によって、耳鳴りを訴える患者さんの約6割から7割の人の症状が改善されますが、それでもダメなら、注射器で鼓膜から麻酔剤を注入する「内耳麻酔」を行います。このほかにも、音楽のような音を流すことで耳鳴りを隠す「TRT療法」(耳鳴り再訓練療法)などがあります。こうした治療によって、耳鳴りを訴える人の約7割は、生活に支障がない程度にコントロールできるようになりますが、残りの3割は正直、難しいと言わざるを得ません。
治療の難しい耳鳴りと向き合うにはどうすれば、よいですか。
正直、耳鳴りを完全になくすのは現代の医療では不可能かもしれません。実際、耳鳴りを訴える人のうち、3割の人の症状が改善されれば「画期的だ」といわれるくらい、耳鳴りは厄介な病気です。病院に行っても医師からは「年のせいだから仕方ありませんね」「なんとか耳鳴りとうまく付き合ってください」などと言われ、あきらめている人がたくさんいます。でも、治療によっては、耳鳴りが気にならない程度に症状を軽減することは十分可能です。最近は、新しい治療法も研究され治療の選択肢も広がりました。あきらめずに症状と向き合い、生活習慣を見直すなど努力を続けることが大切です。
蜂の子は聴力の回復や耳鳴りの軽減に良いと言い伝えられていますが、科学的に検証された報告はほとんどありませんでした。そこで蜂の子の飲用が耳鳴りにどのような影響を与えるのかヒト臨床試験を行いました。その結果、蜂の子を飲用したグループでは、耳鳴りの自覚症状が改善されました。
軽度の耳鳴りを自覚する男女60人に、12週間継続して蜂の子もしくはプラセボ※を飲用してもらいました。その後、耳鳴りの大きさ、長さ、頻度、気になり方を飲用前後で比較しました。
蜂の子の飲用が難聴にどのような影響を与えるのかヒト臨床試験を行いました。聴力検査の結果、蜂の子を飲用したグループでは、より聴こえやすい方の耳(良聴耳)で2キロヘルツおよび4キロヘルツの高音域における聴力の回復がみられました。一方プラセボ※を飲用したグループの良聴耳では、低音域における聴力レベルが低下した。
難聴患者60名を2グループに分け、一方には蜂の子(720mg/4カプセル/日)を、もう一方には蜂の子を含まないプラセボ※を12週間飲用してもらいました。そして聴力検査を行い、飲用前後の変化を比較しました。
※プラセボ:外見は被験品と同じであるが、成分としては効果が無いもの。
米国ハーネマン医科大学でシニアサイエンティストとしてミトコンドリア研究に従事後、製薬会社で20年間、創薬(有効性・安全性・薬物動態)に携わる。その後10年間、山田養蜂場 健康科学研究所にて食品の機能性研究に取り組んできた。