紀元前から、私たち人間の身近にある“蜂蜜”。
ここでは、“美味しい”に留まらない蜂蜜の奥深さに、
最新の科学をもって迫ります。
私たちの生活にすっかり定着した、メタボリックシンドローム(メタボ)という言葉――テレビなどでも頻繁に耳にします。しかしメタボリックシンドロームとは何か、具体的に説明するとなると、少しとまどってしまうのではないでしょうか。
メタボリックシンドロームとは、お腹がぽっこり出る内臓脂肪型の肥満(厚生労働省の基準で、腹囲:男性 85 cm以上、女性 90 cm以上)に加えて、高血糖・高血圧・高脂血症のうちの 2 つ以上の症状が現れている状態をいいます。このメタボリックシンドロームは、しばしば“氷山”に例えられます。高血糖・高血圧・高脂血症はそれぞれ独立して存在しているのではなく、すべてが肥満を土台としてつながっており、さらに根本の、氷山で言えば水面下に当たる目に見えない部分に、生活習慣の乱れによる体のエネルギー消費の不調があるからです。
メタボリックシンドロームの人は、そうでない人に比べて、脳卒中や心筋梗塞など、命を落とす確率の高い動脈硬化性の病気の発症リスクが高まってしまうため、その予防や改善は、健康に長生きするための重要な課題です。
しかし、血圧や血糖を下げる薬などを飲むだけでは、水面上に出た氷山のひとつの山を削るようなもので、根本的な問題は解決しません。生活習慣に気をつけて、「氷山全体を小さくすること」が大切です。
さて、このメタボリックシンドロームの初期に、「インスリン抵抗性」という、注意が必要な状態が見られます。インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、摂取した食べものから血液に吸収されたブドウ糖を、肝臓、筋肉および脂肪の細胞に取り込ませたり、エネルギーとしての消費を促したりすることで、血液中の糖の濃度(血糖値)を低下させる働きがあります。インスリンの働きによって臓器に取り込まれた糖は、ブドウ糖がつらなった形をしているグリコーゲンや、脂質の一種である中性脂肪として蓄えられ、最終的に、エネルギーとして活用されます。
「インスリン抵抗性」とは、このインスリンが効きにくくなっている状態のことです。健康な状態や初期のインスリン抵抗性の状態のときには、空腹時の血糖値や食後の高い血糖値を下げるインスリンの力は正常ですが、長期に渡ってインスリン抵抗性が悪化した状態にあると、血糖値が上がってしまうだけではなく、糖・脂質などがうまくエネルギーとして使われず、体内に滞って、糖尿病や動脈硬化の進行を引き起こしてしまいます。
では、なぜインスリン抵抗性が起きるのでしょうか。その原因として、過食や運動不足、そして肥満が挙げられます。体内の脂肪の増加のほか、糖質の摂りすぎによって血糖値の高い状態が続くと、血糖値を下げようとインスリンの分泌が過剰となり、最終的にインスリンの効果が発揮されにくい状態であるインスリン抵抗性が引き起こされてしまうのです。さらに、インスリンが過剰に分泌される状態が続くと、膵臓が疲れてインスリンの分泌量が減少し、糖尿病へと徐々に進行していきます。
したがって、メタボリックシンドロームを初期段階で予防するには、インスリン抵抗性の予防が効果的で、その方法としては、食事内容の見直しや日常的な運動のほか、食事による血糖値の急上昇をなるべく緩やかにすることが挙げられます。これにより、インスリンの過剰な分泌を予防することができるのです。
インスリン抵抗性を予防するために注目したい指標として、グリセミックインデックス(GI 値)と、インスリンインデックス(II 値)という数値があります。
GI 値とは血糖値の上がりやすさを示す指標で、GI 値が高い食品ほど、血糖値を急激に上げやすいものであると言えます※1。そして、GI 値 55 以下の食品を「低 GI 食品」、56 ~ 69 の食品を「中 GI 食品」、70 以上の食品を「高 GI 食品」と分類します※2。例えば、白米は GI 値 72 で高 GI 食品に分類され、玄米は GI 値 66 で中 GI 食品に分類されています※1。
一方、II 値とはインスリン値の上がりやすさの指標で、II 値が高い食品ほど、インスリン値を上げやすいものと言えます※3。
糖質の過剰な摂取を控えるとともに、血糖値やインスリン値を上げにくい食品、つまり、低 GI ・低 II の食品を選ぶことで、メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクを抑えられると考えられています。
さて、ミツバチ産品の中で糖質をたくさん含む食品といえば、なんといっても蜂蜜です。蜂蜜は糖質を約 80 %含んでおり※4、その甘さを利用して様々な料理に使われています。
甘味の強い蜂蜜は、一般的に高 GI 食品と認識されており、実際に、百花蜂蜜を GI 値 87 の高 GI 食品とする報告があります※5。しかしその一方で、ルーマニア産アカシア蜂蜜は、GI 値 32 の低 GI 食品であるとの報告もなされているのです※6。つまり、蜂蜜は蜜源植物の種類によって GI 値が異なると考えられます。もし低 GI の蜂蜜の種類がはっきりと分かれば、糖尿病を予防するために血糖値に注意している方が甘い料理を楽しむための一助となり、健康的で豊かな生活を送る上で、有意義な情報となるでしょう。
そこで山田養蜂場では、低 GI の蜂蜜の種類を特定するため、山田養蜂場の蜂蜜 4 種類(国産里山あかしあ蜂蜜、国産里山れんげ蜂蜜、ルーマニア産熟成アカシア蜂蜜、カナダ産クローバー蜂蜜)と、他社の蜂蜜 2 種類(A 社中国産レンゲ蜂蜜、B 社中国産・アルゼンチン産蜂蜜)を用い、それぞれの GI 値と II 値を調べました。
試験では、被験者 34 名を 6 グループに分け、それぞれの蜂蜜を、糖質に換算して 50 g分含む飲料を飲用してもらい、飲用前と、飲用後 30分、60 分、90 分、120 分の血糖値およびインスリン値を測定しました。そしてその値と、代表的な糖であるブドウ糖を飲用したときの値とを比較して、GI 値と II 値を算出しました。
試験の結果、国産里山あかしあ蜂蜜とルーマニア産アカシア蜂蜜を飲用した場合に、上昇した血糖値とインスリン値が、ブドウ糖を飲用したときよりも速やかに正常値に戻ることがわかりました。
また、GI 値・ II 値ともに最も低い蜂蜜は国産あかしあ蜂蜜であり、次いで、ルーマニア産アカシア蜂蜜であるという結果になりました。つまり、アカシア蜂蜜は、国産・ルーマニア産ともに低 GI ・低 II の食品であることがわかりました。
日常生活で使用する甘味料を、低 GI ・ 低 II のアカシア蜂蜜に置き換えることにより、蜂蜜の風味を楽しみながらも、メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクを抑えることが期待されます。
注)本研究発表は、糖尿病の方に蜂蜜をお勧めしているものではありません。健康の維持にお役立てください。