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トップ > 山田英生対談録 > 白澤 卓二氏×山田 英生対談 > 第五回「寝たきりの原因 骨粗しょう症」
日本人の平均寿命が延び、「人生100年時代」も夢ではなくなってきました。その一方で増えているのが高齢者の寝たきりです。その引き金となっているのが、骨粗しょう症や運動器障害による転倒、骨折。自分らしく健やかに老いる健康長寿への秘訣は、長い老後をいかに元気に過ごすか、にあります。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が健康長寿の大敵、骨粗しょう症にならないための予防法や寝たきりにならないための介護予防などについて語り合いました。
誰でも年をとると、足腰が弱くなり、ちょっとしたことでも転倒しやすくなります。加齢に伴う筋力の低下やバランス感覚の衰えが原因だと思いますが、高齢での転倒は、骨折につながりやすく、車いすや寝たきりの生活になりやすいので気をつけなければなりません。寝たきりになると脳の機能が低下し、認知症になるリスクも高くなります。そういった意味では、転倒が予防できれば、健康寿命を延ばすこともでき、高齢者のQOL(生活の質)を保つことも可能でしょう。こうした転倒、骨折も、骨粗しょう症が原因の一つだと言われていますが。
確かに骨粗しょう症の人は、骨折しやすくなりますね。たとえば、足をひねる、手をつく、時にはクシャミをするだけで骨折の引き金になることだって珍しくありません。特に大腿骨頚部(太ももの付け根)を骨折すると治りにくく、そのまま寝たきりになるケースも少なくありませんね。私たちの骨は、常に新陳代謝を繰り返しながら新しい骨が作られ、古い骨が破壊されているのです。その形成と破壊のバランスが40歳を過ぎるころから少しずつ崩れてきます。
そこで、重要な働きをするのがカルシウムであると聞いています。骨折を招きやすい骨粗しょう症とは、どんな病気ですか。
骨は、主にカルシウム、リンなどのミネラルとタンパク質からできていますが、骨量、つまり骨の中のミネラルの量が減り、骨がスカスカになって骨折しやすくなるのが骨粗しょう症です。骨量は、成長とともに増え続け、30代をピークに年をとるにつれて減っていきます。最近、単位面積当たりの骨量である骨密度を測ってくれる病院や保健所が増えてきました。カルシウムの量から骨の硬さを推定するのですが、若い人(20?44歳)の平均骨密度を100%とすると80%以上が正常で、70%未満を骨粗しょう症と診断しています。
日本で骨粗しょう症の人は、男女合わせて約1100万人以上に上るとも言われています。これは、総人口の10%弱に当たり、予備軍を含めると、2000万人を超すとの指摘もあります。この病気は女性に多いようですが、なぜですか。
女性は、閉経を機に骨量を維持する女性ホルモンのエストロゲンが急激に減っていくためです。エストロゲンには、カルシウムを形成したり、吸収の調節をするなどの働きがあり、エストロゲンの分泌が減ると骨量も減ってきます。つまり、カルシウムの量が減って、骨がもろくなるわけですね。60歳以上の女性に多く、60代では2人に1人が骨粗しょう症とも言われています。
では、一般的な骨粗しょう症の原因と言えるものは何ですか。
カルシウムやビタミンDの不足に加え、リンや塩分の過剰摂取、偏った食生活、運動不足、喫煙などが関係してきますが、最大の危険因子は、カルシウムの不足といっても過言ではありません。骨の強さは、骨を硬くするカルシウムを若いときに、どれだけ蓄えることができたかによって決まります。貯金にたとえれば、カルシウムの”預金残高“が多ければ多いほど、老後は安心ということになりますね。
そうしますと、女性の場合、骨粗しょう症にならないためには閉経までにいかに多くのカルシウムを貯められるか、そして、更年期以降はカルシウムの預金残高が減らないよう、食事に十分気をつけることが大切なのでしょうか。
その通りです。若いときから、バランスのとれた食事に加え、いろいろな食品からカルシウムなどを摂るような食生活を心がけていれば骨粗しょう症は、防げます。ところが、最近の若い女性は、骨をどんどん作っていかなければならない大切な時期に、無理なダイエットをしたり、偏った食生活を続けている人が多く、必要な栄養分、特にカルシウムが不足している人が確実に増えています。
若くても骨粗しょう症やその予備軍になる危険性が出てくるわけですね。成人の場合、1日にどのくらいのカルシウムを摂ればよいのでしょうか。
最低でも600mg、できれば650mgを毎日の食事で摂ってほしいですね。650mgは牛乳に換算すると、コップ約3杯分。しかし、実際はそんなに摂ってはいないでしょう。
牛乳には1本(200ml)当たり220mgのカルシウムが含まれています。しかも、吸収されやすいので、できれば毎朝1本は飲むようにしてほしいですね。
牛乳は、骨粗しょう症の予防にも有効なのですね。牛乳の他には、主にどんなものを食べればよいのでしょうか。
一般的にカルシウムが豊富に含まれているのは、小魚類、ヒジキなどの海藻類、チーズやヨーグルトなどの乳製品、コマツナ、厚揚げなどが代表的なものといってもよいでしょう。こうしたカルシウムが多く含まれている食品を毎日の食事でできるだけ多く摂ることですね。それと、カルシウムはビタミンDと一緒に摂ることが大切です。カルシウムは、食べたものがすべて吸収されるわけではないので、十分な量を確保するのは意外と難しいのです。その点、ビタミンDと一緒に摂れば、ビタミンDが腸管からのカルシウムの吸収を助け、骨に沈着してくれるのを手伝ってくれます。
ビタミンDといえば、キクラゲや干しシイタケ、サケやサンマなどの魚に多く含まれていることがよく知られていますが、先生のご説明ではカルシウムを十分確保するためにはビタミンDと一緒に摂るのが効果的であることがよくわかりました。では、そのためにはどんな食べ物を組み合わせて食べればよいのでしょうか。
たとえば、骨まで食べられる小魚と干しシイタケを一緒に食べるとか、豆腐にカツオ節をかけて食べてもよいでしょう。
ビタミンDを体内にとり込むには、ビタミンDを多く含む食品を摂ることはもちろんですが、体内でもビタミンDは作られると聞いています。
はい。だから、適度に日光に当たることが必要ですね。紫外線を浴びることでビタミンDが体内で合成されるためで、季節にもよりますが、夏なら1日15分程度、それ以外の季節では30分ぐらいの日光浴を心がけてほしいですね。
大豆製品に含まれているイソフラボンも、骨密度の低下や骨粗しょう症の予防によいとされていますね。
イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンに構造が似ていて、骨にも同じような作用をします。エストロゲンは、カルシウムが骨から過剰に溶け出すのを防ぎ、骨の形成を促進する働きもあるため、女性ホルモンの分泌が減少する更年期にイソフラボンを摂取して補えば、骨量の低下が抑えられ、骨粗しょう症の予防にもつながるのです。毎日の食事ではイソフラボンが豊富な豆腐や納豆、豆乳などの大豆食品をできるだけ摂るようにしたいものです。
骨粗しょう症を防ぐには、運動もよいと聞きました。
ウォーキングなど適度な運動によって骨が刺激されると、食品から摂ったカルシウムが骨に効果的に取り込まれ、骨が強くなります。できれば坂道や階段などを歩くようにすると、より効果的でしょう。
よく骨粗しょう症になると、「トシだから仕方がない」と言う人もいますが、そんなことはないと思います。高齢の方が骨粗しょう症を治療するにはどんな方法がありますか。
何と言っても食事でカルシウムを十分摂り、適度な運動を続け、予防することが大事でしょう。それでも、骨粗しょう症と診断された場合は、腸管からのカルシウムの吸収を促進する薬や骨を作る薬などの薬物療法が治療の中心になります。また、更年期にはエストロゲンが減少し、骨量の低下や自律神経失調症などを招きやすくなるので、これを補充するホルモン補充療法を受けるのも一つの方法ですが、副作用の心配もあるので専門医とよく相談していただきたいですね。
年をとると、骨粗しょう症による転倒、骨折以外にも腰痛や関節痛など身体のいろんな部分が痛くなってきます。やはり、運動器の機能が低下するためでしょうか。
「ロコモティブシンドローム(略称ロコモ)」という言葉をご存じですか。足腰の痛みや骨粗しょう症のほか、バランス能力や筋力の低下などによって骨や関節、筋肉などの機能が低下し、要介護状態や寝たきりになる可能性が高い状態のことを言います。
実際、ロコモかどうかを確かめるにはどんな方法がありますか。
それには①片脚立ちで靴下がはけない②階段を上るのに手すりが必要③15分くらい続けて歩けない④家のやや重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難⑤家の中でつまずいたり、滑ったりする⑥横断歩道を青信号で渡りきれない⑦2kg程度の買い物をして持ち帰ることが困難―の7つのチェック項目があり、このうち一つでも当てはまれば、ロコモの疑いがあるとされます。その時は、机やテーブルなどにつかまっての片足立ちや、お尻を上げ下げするスクワットが有効です。
骨、関節、筋肉など人間の身体の動きを担う運動器の健康を保つことは健康長寿を維持するためにも大切ですね。運動器が健康でなければ、その先には要介護や寝たきりの状態が待っています。健康長寿は医療の力だけではなく、自らの日々の努力で獲得するものと言えますね。
1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。