山田養蜂場運営の研究拠点「山田養蜂場 健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。
私たちは日ごろ「風邪」と気軽に呼んでいますが、実は風邪という病気は存在しません。正確には「風邪症候群」といい、ライノウイルスやアデノウイルス、コロナウイルス、RSウイルスなどによる「ウイルス性」と、溶連菌(ようれんきん)、マイコプラズマなどによる「細菌性」に大別できます。どちらもせきやくしゃみで飛沫(ひまつ)が飛び散り、周囲の人にうつる感染症です。冬に流行しやすいのは、低温と乾燥の環境を好むウイルスや細菌が多いためです。
放っておいても自然に治ることもありますが、なかには重症化し、気管支炎や肺炎などを起こす場合があります。また、がんやリウマチなど別の重い病気だったというケースもあり、“たかが風邪”と甘く見るのは禁物。正しく予防し、かかったかなと思ったら、医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
風邪のウイルスや細菌をシャットアウトするマスクは、風邪予防の基本アイテムです。口の中の湿度を上げてウイルスや細菌が繁殖しにくくする作用もあります。ただし昔ながらのガーゼのマスクだと、繊維のすき間からウイルスが入り込んでしまいます。不織布でできたマスクを使い、鼻と口元をしっかりフィットさせるようにします。なお、マスクにはウイルスがつくので、こまめに取り換えて。
手についたウイルスや細菌は、数時間は生きて感染力を持っています。鼻や口から体内に侵入してくるのを阻止するため、外出から帰ったら必ず手洗いとうがいを。指の股(また)や爪も念入りに洗い、できればひじの方まで洗いましょう。うがいは5~10回程度行うと、のどについたウイルスをかなり減らせます。
市販の風邪薬は、熱やせき、鼻水などの症状を改善するもので、根本的な治療にはなりません。また風邪にもさまざまな種類があり、それぞれに適した薬があります。まずは診察を受けましょう。
軽いウイルス性の風邪なら、市販の風邪薬でも効果はあるでしょう。しかしウイルスや細菌の数が多かったり、そのほかの合併症が出ていたりする場合もあります。せき、熱、くしゃみ、鼻水など、風邪と思われる症状が3日たっても治る気配がなかったら、迷わず病院へ。週末にかかる場合は、病院が休みになる前に行きましょう。重症化や思わぬ病気を防ぐことができます。
細菌やウイルスなどの病原体から体を守るシステムを「免疫機能」といいます。免疫機能は加齢とともに低下するため、高齢になると風邪をひきやすくなります。その反面、せきを出す筋力や、熱を上げる体力が不足するため、強いせきが出なかったり、熱もあまり上がらなかったりし、症状が軽く見えるのが高齢者の風邪の特徴です。しかし実際は重症化していることが多々あるので、注意が必要です。診察を受けるにあたって、健康診断の結果を持参すると、血液検査などの数値を比較し、的確な診断をするのに役に立ちます。
風邪をこじらせ肺炎で亡くなる高齢者が増え、現在肺炎は日本人の死因の第3位です。65歳を過ぎたら肺炎の主な原因である肺炎球菌のワクチン接種をおすすめします。このワクチンは5年以上あけて2回目を打つとよいとされています。接種するタイミングは、風邪などをひいていない体調のよいときを選ぶことが大切なので、接種予定の3日前から体温を記録しましょう。
下のグラフの患者さんは、一見、平熱が続いているように見えますが、私には発熱の傾向が読み取れたため、ワクチン接種を延期。すると案の定、5日目に高熱が出たので、延期して正解でした。
せきは、痰(たん)や異物を気管支から排出しようとする体の防御反応です。水分補給をしたり、部屋を加湿したりすると、痰が出やすくなります。温度差によってもせきが誘発されるので、注意してください。せきがつらそうなときには、背中の肩甲骨(けんこうこつ)のあたりから背骨に向かってトントンと軽く叩いてあげるとラクになることがあります。せきをすると体力を消耗しますが、薬などでやみくもに止めればいいというものでもないので、治まらないときには医師に相談してください。
以前は「病人は風呂に入らないほうがいい」といっていましたが、住宅環境がよくなり、お風呂から出たあとも温かくしていられる今は、症状が重くなければ入浴してもかまいません。ただし、風邪をひいて体力が衰えた体に冷えは大敵。「汗をかいた部分を中心にさっと洗い」、お風呂から出たら「十分に水分をふき取って」、「吸湿性のよい清潔な下着に着替え」、「すぐに布団に入る」ことが大原則です。
日ごろからできる風邪の予防法は、私たちの体に備わっている免疫機能を維持させることに尽きます。まずは食事です。過食を控え、バランスよく食べましょう。具体的には3大栄養素を、炭水化物(穀物・いもなど)約55%、タンパク質(魚、大豆、卵、乳製品など)約30%、脂質(油脂、脂肪の多い食品)約5%を目安にしたエネルギーバランスで摂り、あとの10%をビタミン・ミネラル・食物繊維の多い野菜・海藻・きのこなどで摂るとよいでしょう。日本糖尿病学会が編集した『食品交換表』という本が参考になります。運動で基礎体力を養うことも大切。ジムに通わなくてもウォーキングで十分です。そしてよく眠ること。あとは、手洗い・うがい・マスクを徹底すれば万全でしょう。簡単で当たり前のこと
ばかりですが、これがいちばん大切です。
「好きなことをしてよく寝る」ことです。診察後は晩酌を楽しみ、夜の8時に就寝。朝の4時に起きてから8時に出かけるまでが自分の時間で、執筆などの仕事や、読書、メールチェックなどをします。私にはこのサイクルが合っているようで、開業以来20年近く、風邪もひきません。まとまった休日には外国に出かけます。嫌なことはやらないし、好きなことはとことんやる。ストレスがないことも健康維持の秘訣ですね。
松永貞一(まつながていいち)先生
永寿堂医院院長。東京慈恵会医科大学卒業。チューリッヒ大学医学部小児科、東京慈恵会医科大学助教授、昭和薬科大学客員教授などを経て現職。専門は感染症。著書に『風邪の話』(日本医学館)など。