山田養蜂場運営の研究拠点「山田養蜂場 健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。
「人は血管とともに老いる」といわれます。二大生活習慣病と呼ばれる心筋梗塞と脳卒中、この代表的な2つの血管の病気を起こさなければ、健康長寿が実現します。そのためには薬よりむしろ食の知識がより重要です。
心筋梗塞や脳卒中など多くの生活習慣病には、食生活とともに遺伝的要因が深く関係しています。でも、たとえ遺伝のリスクがあっても、栄養の摂り方によってリスクは軽減され、生活習慣病を寄せつけずにすみます。
私は40年ほど前、遺伝的に脳卒中を起こすラットを世界で初めて開発し、実験を行いました。このラットに、みそ汁ぐらいの濃度の塩水を与えても、魚や野菜、大豆などの栄養源を摂取させると、食塩の害が打ち消され、長生きしたのです。その後、私は世界各地の長寿や短命の人々の食事情を調査し、人間にも同じようなことが立派に通用することが証明できました。
日本の女性は長い間、平均寿命世界一を誇ってきましたが、2011年、香港にその座を奪われてしまいました(※)。香港では、新鮮な海の幸、山の幸が豊富で、塩分の多い保存食はほとんど食べません。大豆文化の源流の地である貴陽や、野菜や果物をたっぷり食するウイグルなど、中国大陸の各地域から長寿食が香港の庶民の食生活に入りこんでいます。またお年寄りは高層住宅の上下階に多世代で暮らし、大家族で楽しく食卓を囲んでいます。いっぽう日本では個食化も進み、世界が評価する伝統食が衰退しつつあります。食生活を改めることで再び長寿世界一を目指したいものです。
※香港は国ではありませんが、男性・女性ともに平均寿命が日本を上回っていることを世界保健機関(WHO)が報告しました。
栄養素やエネルギー量など日々の食事をすべて上手に管理すれば健康的な人生を送れるはず。とはいえ、一日朝、昼、晩3食ともバランスのとれた食事を続けるのは、多忙な現代人には大変なことでしょう。でも、3食のうち1食だけなら、がんばれるはず---。そこで、世界中で研究して得られた結果の"理想的な食事"を1食のお弁当に詰め、生活習慣病が気になる働き盛りのビジネスマン50人余りに1ヵ月間食べてもらい、発病の抑制につながるかどうかを調査する『ヘルシーランチ計画』を実施しました(※)。
この計画では、栄養バランスに優れた「ヘルシーランチ」とともに、大豆のイソフラボンと魚のDHAを増量した「強化ランチ」を用意しました。2班に分け食べてもらった結果、どちらの班も、朝食と夕食は普段通りで1食をヘルシー食にしただけなのに、肥満度や血圧が改善。「強化ランチ」班は、動脈硬化指数(悪玉と善玉コレステロールの割合)も改善され、動脈硬化のリスクが1割も下がりました。
一日一膳、栄養をしっかり吟味した食事をとることで、肥満や生活習慣病は食生活で予防が可能です。継続が困難ではないこの食のスタイルを、ぜひ家庭や学校、職場から広めてみてください。
日本の長寿を支えてきた伝統食を未来へとつなげていくには、食育が大事。そのキーワードとされている「まごはやさしい」は、毎日しっかりバランスよく食べてほしいわが国伝統の食材を示したものです。ただし、日本食の欠点は、食塩の過剰摂取とカルシウムの不足。牛乳でカルシウム、カリウム、マグネシウムを補えば、食塩の害も防げ、栄養改善に役立ちます。しかし、牛乳を飲むと乳糖を消化できず、おなかがゴロゴロする人もいます。そこで、乳糖が乳酸になっている発酵乳(ヨーグルト)で摂れば問題がありません。
私は「まごはやさしい」の食材に、西の長寿食であるヨーグルトを加え、さらに日本人のパワーの源である米も加えて、「まごこはやさしいよ」として東西長寿食の融和を提唱しています。
日本人は米食のおかげで肥満も少なく、コレステロールが低いのです。また大豆や魚をたくさん食べればイソフラボンやタウリンを多く摂取でき、肥満も抑えられ、コレステロールも低くなり、心筋梗塞の死亡率は低くなります。
生活習慣病の予防栄養学の観点から、積極的な栄養摂取のすすめとして、「孫子は優しいよ!」をこれからもどんどん発信していきたいと思っています。
健康にいいからと大豆食品をせっせと食べても、栄養が吸収されずに排出されてしまう人がいることをご存じでしょうか。おそらく、腸内環境の悪さが原因です。バランスのよい食事で、腸内環境を整えておくことが大切。同様に、サプリメントの大豆イソフラボンや、必須アミノ酸が豊富なローヤルゼリーなどをより有効に活用するには、きちんとした食生活が基本になります。
私自身、血圧が上がりやすい体質であるにもかかわらず、健康状態が良好なのは、食事のおかげだと信じています。夕食は外食になることが多いので、自宅で食べる朝食で一日のかなりの栄養をバランスよく摂っています。そのメインメニューは、野菜やだし用こんぶ、いりこなどが入った「五目みそ汁」。そして「きなこヨーグルト」です。ヨーグルトにはナッツ類やじゃこ、大根おろし、とろろ昆布なども混ぜたりしますので、驚かれる方もいますね(笑)。
塩分を摂らなかったころのマサイ族は高血圧者はほとんど0%だったが、塩分を摂るようになると12%に。食塩を摂りすぎると、高血圧で脳の血管が破れたり詰まったりして、脳卒中を起こす恐れがある。
動物性脂肪を摂りすぎると動脈硬化を促し心筋梗塞などの原因に。沖縄では豚肉はゆでて脂肪を抜く料理が多く、健康を保ちやすい。
長寿の里・ビルカバンバの市場は野菜や果物が一年中、山積み。栄養成分はいろいろあるがカリウムと食物繊維は食塩の害を減らしてくれる。
長寿者の多いコーカサス地方の人々が朝と昼にどんぶり一杯ほど食べるのがヨーグルト。心筋梗塞で亡くなる人は非常に少なく、高齢者も元気です。
長寿地域には魚の食文化があることが多い。また大豆は血管を丈夫にするが、沖縄の人が長寿なのは多く食する大豆の効果も見逃せない。
グルジア人やウイグル族は、大家族がそろい、時間をかけておしゃべりをしながら食事を楽しむ。独りで食事をするお年寄りや子どもはほとんどいない
広州は海の幸や山の幸が豊富で、新鮮な食材を生かして栄養バランスのとれた料理をいろいろ食べる。「食は広州に在り」といわれるゆえんだろう。
朝昼晩のうち一回はヘルシーなバランス食を。日本を含め、世界中の長寿地域で欧米型の食が日常的になってきている。一日一膳から始めよう。
健康力は自ら磨いて高めるもの。そのカギとなるのが”食”だ。先人が遺した伝統食を見直しつつ、食材選びや調理法を工夫しよう。
長寿地域に共通するのは、食を愛し、生活を謳歌するポジティブな姿勢。世界の長寿食文化に学んで、健やかなライフスタイルを実現したい。
監修
家森幸男先生
武庫川女子大学国際健康開発研究所所長、京都大学名誉教授。1983年からWHOの協力を得て世界25カ国61地域を学術調査。生活習慣病を防ぐための“知識のワクチン”を世界に広めるべく活躍中。