研究成果のご紹介

がん治療の副作用として発生する口内炎をローヤルゼリーが緩和する
〜頭頸部がん患者を対象とした予備的研究〜

杏林大学 医学部 山内 宏一(2009年度採択)

頭頸部がんの治療では、主に放射線と抗がん剤の併用療法(化学放射線治療)が行なわれる。外科手術を避けることで、容貌や、発声・咀嚼・嚥下といった重要な機能を、可能な限り温存するためである。化学放射線治療は高い効果を上げているが、一方で、口内炎の発生が問題となっている。この口内炎は強い痛みを伴うため、患者は食事が困難になり、鼻からチューブを挿入したり、腹部にあけた穴から胃に管を通したりして、栄養を補給しなければならなくなる。放射線や抗がん剤の量を抑えれば副作用は現れないが、結果として治療効果も低下するため、それらを制限せずに副作用のみを抑える方法が求められている。しかし現在のところ、有効な解決策は見つかっていない。

これまでに、口内炎モデルを用いた研究にて、ローヤルゼリーが、抗がん剤による口内炎を改善することが報告されている。そこで、杏林大学医学部の山内宏一医師らの研究グループは、ローヤルゼリーの摂取により、化学放射線治療によって発生する口内炎の症状を緩和することができるかを、頭頸部がん患者を対象としたランダム化単盲検試験によって検証した。

山内医師らは、18歳以上の頭頸部がん患者13名を、ローヤルゼリー群とコントロール群にランダムに分けた。そして、6〜7週間にわたって化学放射線治療を実施すると同時に、ローヤルゼリー群には、生ローヤルゼリー1 gを1日3回摂取させた。コントロール群には、化学放射線療法のみを実施した。そして、治療開始時、2週目、4週目、治療終了時、および、終了時から1ヶ月後に、下記の口内炎グレードを観察した。この際、医師の先入観が結果に影響しないようにするため、患者が試験食を摂取しているかどうかを、診察する医師に分からないようにした(医師盲検)。

 

口内炎グレード

  • グレード1:粘膜の紅斑。
  • グレード2:斑状の潰瘍と偽膜(白い薄皮)。食べやすく加工した食品なら摂取できる。
  • グレード3:癒合した潰瘍と偽膜。わずかな外傷で出血。口から栄養や水分が充分に摂取できない。
  • グレード4:組織の壊死と顕著な自然出血。生命が脅かされている。

 

なお、本研究は、杏林大学医学部倫理委員会の承認後、被験者に試験内容を充分に説明し、文書での同意、署名を得て実施された。

試験の結果、ローヤルゼリー群における口内炎グレードが、治療開始2週目から治療後1ヶ月後まで、コントロール群よりも有意に低いことが分かった(図)。特に治療終了時において、コントロール群ではすべての患者の口内炎がグレード3だったのに対し、ローヤルゼリー群でグレード3まで進行した患者は全体の7割にとどまった。

試験の結果、ローヤルゼリー群における口内炎グレードが、治療開始2週目から治療後1ヶ月後まで、コントロール群よりも有意に低いことが分かった

以上の結果から、化学放射線治療の副作用として発生する口内炎の悪化を、ローヤルゼリーの摂取によって抑制できる可能性が示された。今後、多数の患者を対象とした二重盲検試験による効果の裏づけが求められる。

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