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山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十七回「健康長寿とメンタルケア」

生きがいとは「何かにときめくこと」。心の若さが、身体の若さもつくります。

90歳、100歳になっても健康で生き生きと暮らすには、バランスのとれた食事や適度な運動、そして生きがいを持つことが大切といわれています。「年だから」などとあきらめず、いつまでも夢や希望を失わない心の健康が欠かせません。ストレスと上手に付き合いながら「生涯現役」の気概を持って前向きに仕事や趣味、ボランティア活動などにチャレンジすることが生きがいにもつながるでしょう。老化は単なる年齢の積み重ねではなく、心のあり方と生き方しだいで、その進行に大きく影響するといわれています。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が生きがいと心の健康、老化に及ぼす影響などについて語り合いました。

何事もプラス思考で

山田

現代社会は、ストレス社会ともいわれ、多くの人が心の病に悩んでいます。若者はもちろんのこと、高齢者も定年退職で肩書が外れ社会的役割を失ったことで生きがいをなくし、うつ病になる人が増えている、と聞きました。

白澤

特にストレスに弱い人ならば、退職で生活環境が変わったところへ家族や親しい友人らとの死別などの心理的ショックが重なれば、いつうつ病になっても不思議ではありません。

山田

逆に妻にしても、定年退職で家にいることが多い夫と毎日、顔を突き合わせ、3度の食事の準備もしなければならない人もいるでしょう。そんな夫の存在は、妻にとっては大変なストレスで、場合によっては心身に変調をきたす「主人在宅ストレス症候群」を発症するケースもあると聞きました。

白澤

症状が悪化すれば、うつ病になるリスクだって、ないとはいえません。そうならないためにも、何事にも前向きに取り組み、常に「ポジティブ・シンキング」を心がけることが必要でしょう。閉じこもりは、心の老化を進めるだけです。仕事を辞めて、家事は妻任せ、これといって趣味もなく、朝からパジャマ姿でテレビばかりを見ているような生活は、あまり感心できませんね。こんな生活を続けていたら、すぐに心身の機能が衰えてしまいます。

山田

頭や体を使わなければ、そうなりますよね。

白澤

健康な人でも一日じっと寝ていると、足の筋力が1週目で20%、2週目で40%、3週目で60%低下する、とのデータがあります。さらに、体中の関節がスムーズに動かなくなり、体を起こそうとすれば血圧が下がってめまいがする「起立性低血圧」になると、座ることや歩くこともできなくなります。もっと進めば、「廃用症候群」となり、骨が弱くなるだけでなく、心臓や肺の機能も低下し、抑うつなどの精神症状も出てきます。それを元の状態へ回復させるには、予想以上に時間がかかります。そのまま放っておけば、寝たきりになる恐れも出てきます。

山田

怖いですね。

長寿を呼ぶ心の健康

白澤

そうならないためにも、自分でできることは自分でやり、足や指、首など動かせるところはどんどん動かすことで機能が低下しないよう心がけることが大切ですね。年をとると、筋肉の量が減ったり、機能が低下する「サルコペニア」を発症するリスクが高くなります。この病気は寝たきりにもつながりやすいので、運動などを積極的に行うことで筋肉量を維持することが大切ですね。

山田

「手は外部の脳である」という有名な格言があります。手にはたくさんの神経が集まっていて、指先を動かせば脳に刺激を与えることができるという意味ですね。脳を活性化するには、それくらい手を動かすことが大事だということでしょう。そういえば、手をよく使う彫刻家や画家には長生きの人が多いですね。旺盛な創作意欲が長寿パワーの源となっているのでしょうか。

白澤

それに加え、画家や彫刻家は日頃から描くテーマを持っていることが大きいですね。これは、生きがいでもあり、一生持ち続けることが長生きにつながります。また、読んだり、書いたり、考えたり、どんどん頭を使えば使うほど脳は活性化し、認知症予防にもつながります。

山田

よく100歳を超えたお年寄りが、テレビなどで長寿の秘訣を聞かれると「クヨクヨしないこと」と答えていますよね。

白澤

私がこれまでお会いしてきたお元気な百寿者の中には、クヨクヨと思い悩むような人は一人もいませんでしたね。戦争や災害、大病、肉親の死などたくさん辛い経験をされてこられたのに、誰一人として苦労話はしたがりません。むしろ、自分の成功談や自慢話をされる方が多く、自分の人生を肯定的にとらえておられます。

山田

こうした心の健康も、長寿には欠かせない要因ですね。

社会参加で生涯現役

白澤

その通りです。特に仕事や、ボランティア活動は、人のため、社会のためにもなり、その人にとっても生きがいになるでしょう。百寿者の方を対象にしたいろんな調査を見ても70代まで仕事を続けた人が最も多く、100歳になっても畑仕事や店番など、できる範囲で仕事を続けている人が少なくありません。

山田

定年後の生きる目的を失った人や自分の居場所をなくした人は、まず仕事探しから始めてみるのもよいかも知れませんね。現役時代に比べれば、収入もささやかで、単純な仕事が多いかも知れません。それでも、働けば健康にもよいし、新しい仲間ができる可能性もあります。仕事を通じて社会に貢献できれば、それが生きがいにもつながるでしょう。

白澤

生きがいとは、「何かにときめくこと」でもあります。その点、趣味もときめきを与えてくれますね。趣味や習い事に没頭する、資格に挑戦する、韓流スターを追いかけるのも、心がときめくでしょう。趣味に没頭することは、脳に刺激を与え、脳の老化を防いでくれます。実際、趣味や目標のある人は、ない人に比べ脳に新しい神経細胞が5倍も多くつくられる、というデータがあります。どんなにささやかなことでも心から楽しめば、心はいつでも若々しくいられるでしょう。

山田

新聞で「趣味のある人は、ない人よりも認知症になりにくい」という記事を読んだことがあります。趣味やボランティア活動などを通じて積極的に外へ出て、いろんな人との交流を広げることは大切ですね。

白澤

高齢になれば、外に出て歩くだけでも脳と五感への刺激が増します。読書が好きなら町の書店や図書館に行ってみる、絵を描くのが趣味なら写生や画廊めぐりもよいでしょう。

料理、歌で若返る

山田

旅行が趣味という人がとても多いようですね。仕事や子育てから解放され、時間的にもお金の面でも比較的ゆとりのあるシニア世代にとっては、見知らぬ土地への旅は、心がワクワクするでしょう。

白澤

「あそこへ行きたい」、「あの料理を食べたい」などと、考えただけでも心が躍ります。そんなときめきと好奇心は、脳に刺激を与え、寿命を延ばす「長寿遺伝子」を活性化させてくれます。

山田

料理も脳のアンチエイジングには最適のようですね。「男子厨房に入らず」という言葉があるように、昔は男は炊事に手を出すべきではない、という風潮がありましたが、最近は料理をする男性が増えました。

白澤

料理は、非常に頭を使う、奥の深い世界です。まず、何の料理をつくるか献立を考えることから始まり、メニューが決まったら食材を集め、調理する。創意工夫やアイデアが必要な、実に創造的な作業です。

山田

それと、カラオケが健康にとてもよいともいわれていますね。

白澤

お年寄りたちが歌うことによって心身ともにリラックスし、脳が刺激されて認知機能の低下予防に役立っているからです。おなかの底から大声を出して歌えば、適度な緊張とリラックスのバランスが脳下垂体を刺激し、自律神経を整えるのによい影響を与え、ストレスを発散させてくれます。

山田

老人ホームのお年寄りがボランティアの美容スタッフから化粧をしてもらい、見違えるように明るく元気になったという話が新聞に出ていました。化粧によってリハビリ効果も高まり、「寝たきりの人が歩けるようになった」「オムツを外せた」などの話もよく聞きます。化粧やおしゃれには、それくらい大きな効果があるのですね。

白澤

ありますね。化粧をする、マニキュアを塗る…。おしゃれは高度なコミュニケーションが図れます。身なりに気を使わなくなったら、心も老いやすくなってしまいます。

百寿者の主な趣味

山田

それと、近年「笑う」ことが健康法の一つとして注目されています。笑いが心や体によいことが医学的にも実証されつつあり、「笑い」を病気の予防や治療の一つに加えている医療機関もあると聞きました。

白澤

毎日笑う人は、ほとんど笑わない人に比べ認知機能の低下が少ない、との調査結果もあり、よく笑う人ほど認知症にはなりにくい、ともいえますね。また、がん細胞などを攻撃してくれる「ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)」も、笑うことによって増えるとの報告もあります。

挑戦する気概を持つ

山田

アメリカの詩人、サミュエル・ウルマンは、かの有名な「青春の詩」の中で「青春とは人生のある期間をいうのではなく、心の様相をいう。歳を重ねただけで人は老いない。理想を失ったときに初めて老いる」と謳っています。いつまでも若々しくあるためには理想や希望を持つことが、いかに大切であるかを彼はいいたかったのでしょう。

白澤

それと、いくつになっても新しいことにチャレンジする気持ちを失わないことが大切ですね。この前、冒険家、三浦雄一郎さんが史上最高齢の80歳で、世界最高峰のエベレストの登頂に成功され、多くの人に夢と希望を与えました。老いは、単に年をとるのではなく、心の持ち方しだいで老化の進行は早くも遅くもなるものです。「もう年だから」とあきらめないで、どんどん新しいことにチャレンジしてほしいですね。

白澤 卓二(しらさわたくじ)

1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。

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