山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十五回「病気を治す野菜の力 フィトケミカル」

野菜中心の食卓には、何千種類もの長寿を支える成分が含まれています。

私たちの食生活と切っても切れないのが、野菜と果物。このところ、ファストフードやコンビニ弁当を利用する人が急激に増える一方で、野菜や果物を摂る人が減ってきました。もともと、野菜や果物には私たちが健康を維持するために必要なビタミンやミネラル、食物繊維などが豊富に含まれています。近年、健康との関係から、にわかに注目されているのが野菜の持つ植物性化学物質「フィトケミカル」です。その多くは、色素や香り、苦みなどの成分ですが、今後アンチエイジングやがん予防などの面で大いに効果が期待されそうです。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が野菜や果物の持つ力、健康との関係などについて語り合いました。

目立つ野菜離れ

山田

最近、家庭菜園や市民農園で野菜や果物を作る人が増えてきました。野菜は、生活習慣病やがんの予防など健康によいといわれていますが、気になるのが日本人の野菜摂取量です。厚生労働省は、1日当たりの野菜摂取量の目安として350g以上を摂るよう勧めていますが、日本人の野菜摂取量は、増えるどころか逆に減っているようですね。私が聞いたところでは、1968年当時の摂取量は、1人あたり1日394g程度でしたが、2011年には277gと大幅に減っています。共働きの増加で、調理に時間のかかる野菜の煮物などが敬遠されたのも一因でしょう。もともと、日本食は、野菜を多く取り入れている点が特徴で、日本人は野菜をたくさん食べて世界トップクラスの長寿国家を築いてきたともいえます。野菜を食べなくなると、今後の日本人の健康が心配になってきますね。

白澤

日本人が野菜を食べなくなったのは、食生活の欧米化が進んできたことが大きいですね。元来、日本食はコメを主食に野菜をふんだんに使い、魚介類や海藻、豆類などを多く取り入れているのが特徴です。それが肉類中心の食生活に変わった頃から、野菜の摂取量が減ってきました。欧米と比べても、すでに10年以上前から日本人の野菜摂取量はアメリカ人のそれを下回っています(農林水産省「食料需給表」)。かつて心臓病やがんなどの急増に悩んだ米国は、「デザイナーフーズ・プログラム」や「1日に5皿以上の野菜と果物を食べよう」という『5 A DAY運動』を推進してきました。高カロリー、高脂肪の食生活を見直し、野菜、果物を中心とする食生活に切り換える運動に国をあげて取り組んだ結果、国民の野菜摂取量が飛躍的に増えたのです。

山田

日本人が野菜を食べなくなった背景には、食の欧米化に加え、ファストフードや加工食品・冷凍食品などが次々登場したこともあるでしょう。こうした食品は、確かに手間ひまかからず、早くて便利なのですが、なぜか野菜など伝統的な日本の食の原点を忘れているような気がしてなりません。野菜は、私たちの命を支える大切なビタミンやミネラルを豊富に含んでいますが、最近、健康との関係で話題になっているのがフィトケミカルです。私も注目している一人なのですが。

「第7の栄養素」

白澤

第7の栄養素 「フィトケミカル」最近、そういう人が増えてきましたね。フィトケミカルは、ギリシャ語で「植物」を表す「フィト=Phyto」と英語の「ケミカル=Chemical(化学)」を組み合わせた造語で、野菜や果物の中に含まれている植物性化学物質のことをいいます。これは、タンパク質や炭水化物、脂肪などの栄養素以外の成分であり、薬のような働きが十分期待できます。3大栄養素やビタミン、ミネラル、食物繊維に続く「第7の栄養素」として注目されています。まだ、そのすべてが解明されているわけではありませんが、野菜や果物の中には、5000種類から1万種類のフィトケミカルがあるともいわれています。

山田

代表的なものには、どんなものがありますか。

白澤

たとえば、最近、話題になっているポリフェノールやカロテノイドのほか、フラボノイド、セサミン、カプサイシン、β-グルカンなどもフィトケミカルの一種です。

山田

ポリフェノールといえば、赤ワインやブルーベリーに含まれるアントシアニンやお茶のカテキン、大豆のイソフラボンなどがよく知られています。カロテノイドはニンジンやカボチャのβ-カロテン、トマトのリコピンなどですよね。フィトケミカルは、私たちの健康にとって重要な働きをしている、とよく聞きますが、実際、どんな働きがあるのですか。

抗酸化作用に注目

白澤

一つひとつの野菜や果物に含まれているフィトケミカルの成分は微量ですが、私たちが健康を維持していくうえで、とても大切な役割を果たしています。その中でも、代表的なのが、抗酸化作用でしょう。たとえば、鉄は時間が経つとサビ(酸化)ますが、私たちの体も鉄と同じように細胞にサビが生じ、老化が進みます。その原因が活性酸素で、時々細胞の機能を低下させたり、DNAを傷つけるといった悪さをします。これが積み重なると、さまざまな臓器が動かなくなったり、動脈硬化やがんが発生するきっかけにもなります。この活性酸素を避けるには、できるだけ添加物の多い加工食品を避けると同時に、抗酸化作用の強いフィトケミカルを多く含んだ野菜や果物を積極的に摂ることです。中でも抗酸化作用が強いのは、ポリフェノールですね。

山田

抗酸化作用の強い野菜と果物をたくさん摂ることが、アンチエイジングにつながるのですね。

白澤

そうです。そのほか、フィトケミカルにはがんの発生やがん細胞の増殖を抑える作用もあります。

山田

大豆に含まれるフィトケミカルのイソフラボンが大腸がんや乳がん、前立腺がんの予防にもよい、と聞きました。

白澤

その通りです。それと、フィトケミカルのもう一つの働きは、炎症を抑える抗炎症作用ですね。以上の3点がフィトケミカルの主な作用ですが、こうした働きをすべて持っているのがポリフェノールの一種、レスベラトロールです。赤ワインやインドネシア原産の樹木「メリンジョ」の実に含まれています。

山田

メリンジョのレスベラトロールといえば、当社でも早くから注目し、商品化しており、好評をいただいています。

白澤

それと、フィトケミカルを語る時、忘れてはならないのがブロッコリーですね。約200種類以上のフィトケミカルを含み、この中には抗がん作用が期待できるスルフォラファンやその前駆体(生成する前の段階の物質)である「グルコシノレート」や抗酸化作用のあるカロテンなども含まれています。

山田

さすが「野菜の王様」といわれるだけあって、ブロッコリーには有効成分がたくさん含まれているのですね。

白澤

ブロッコリーは、フィトケミカル以外にも活性酸素を除去してくれるビタミンCやE、貧血を防いでくれる鉄、インスリンの働きを助けるクロムなどのミネラル類も豊富に含んでいます。ブロッコリーは、老化を防ぐ食材として食卓には欠かせない野菜の代表といってもよいでしょう。それと、私がお勧めしたいのが、香辛料のショウガとトウガラシですね。ショウガは、冷え症によいとして漢方薬にも使われていますが、このショウガの持つ栄養成分の代表的なものが辛み成分の「ジンゲロール」です。体を温め、血行をよくするほか、味覚を刺激して自律神経を活性化させ、脂肪を燃焼させる働きもあります。発汗や利尿、排便作用のほか、体内に蓄積された有害物質を分解するデトックス(解毒)効果があるともいわれています。

山田

当社でも国産のショウガを使って「しょうがはちみつ漬」や「はちみつしょうが湯」などを扱っていますが、健康に対する意識の高まりのせいか、お客様の人気が高く、生産が追いつかないくらいです。

白澤

一方、トウガラシに含まれているのが「カプサイシン」という辛み成分。体の中に入ると、血液を通して脳に運ばれ、自律神経の中の交感神経を刺激します。そのため、交感神経からアドレナリンが分泌され、体が熱くなって汗が出てきます。

山田

確かに、カプサイシンを摂取すると、アドレナリンの分泌が促されるせいか、新陳代謝が活発になり、ダイエットや肥満予防にも好影響を与えるそうですね。

不足気味の食物繊維

白澤

与えますね。それと、日本人に不足しているのが食物繊維です。厚生労働省は成人で男性は1日19g以上、女性は17g以上の食物繊維を摂るよう勧めていますが、日本人の摂取量は14g程度に過ぎません。食物繊維は腸の活動を刺激して便通を整える一方で、腸内の有害物質を排泄し、糖質やコレステロール、塩分の吸収を緩やかにします。このため、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病や大腸がんの予防などにもよいといわれていますから、食物繊維を多く含む玄米、ゴボウ、ニンジン、山芋、ダイコンなどの野菜を積極的に摂るよう心掛けていただきたいですね。

山田

日本人に足りないものといえば、果物もそうですよね。厚生労働省は、1日当たり200gの果物を摂るよう勧めていますが、実際の摂取量は約110g程度。先進国の中では最低レベルと聞きました。果物は、ビタミンをはじめミネラル、食物繊維などを多く含み、肥満、糖尿病などの生活習慣病予防や美容にもよいそうですね。

白澤

百寿者の「一番好きな食べ物」はい。果物は糖度が高く、肥満の原因になるとの誤解もあってか日本では食べる人が少ないようです。ところが、健康・体力づくり事業財団が100歳以上を対象に行った「百寿者のくらし調査」では、果物が「刺身」や「甘いもの」を引き離してダントツにトップでした。しかも、男女とも約6割が「ほとんど毎日」果物を食べている、と答えていました。果物に含まれているビタミンCや食物繊維などの健康効果を百寿者たちは本能的にわかっていたのかも知れません。

リンゴを食べよう

山田

では、先生のお勧めの果物は何ですか。

白澤

何といってもリンゴですね。「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」という言葉もあるように、リンゴには健康によい成分がたくさん含まれています。その代表がポリフェノールですね。リンゴにはプロシアニジン、カテキン、ケルセチンなど何種類ものポリフェノールが含まれ、これらを総称して「リンゴポリフェノール」と呼んでいるほどです。こうしたポリフェノールには、脂肪の蓄積を抑え、中性脂肪を減らす働きがあります。特にプロシアニジンにはがん細胞を自死させる働きのあることがわかっています。

山田

いろんな栄養素や抗酸化作用を持つリンゴは、「果物の王様」ですね。1日1個は食べて健康を維持したいものです。

白澤 卓二(しらさわたくじ)

1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。