山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十二回「1日3食 バランスよく食べる」

食べすぎは、明らかな老化の原因。

90歳、100歳になっても健康で自立した生活を送れる健康長寿こそ、誰もが思い描く理想の老後像かも知れません。そんな健康長寿を実現するためには、肥満を防ぐことも重要な要素の一つ。そのためには、食事量などの摂取カロリーを減らし、日々体を動かすことによって消費カロリーを増やすことが前提になってきます。特に食事面でのカロリー制限は、何よりも大切で、食べすぎは寿命や健康、老化にも悪影響を及ぼす原因になる恐れもあります。いつまでも若々しく元気に過ごすには、1日3食をバランスよく摂り、腹七分目で、おいしく食べながら上手に痩せることが欠かせません。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)がカロリー制限と健康長寿の関係や確実に痩せるための方法などについて語り合いました。

過食は万病のもと

山田

肥満を解消するには摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やすことが重要ですね。でも言うのは簡単ですが、これを実行するとなると、なかなか大変です。無理なく痩せるよい方法はありませんか。

白澤

肥満を招く原因は、何といっても食べすぎです。今、日本は、食べたいものがいつでも食べられる飽食の時代です。でも、欲望にまかせて好きなだけ食べていたら、肥満だけにとどまらず高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病やがんを招いても不思議ではありません。最近の研究では食べすぎが老化を早め、認知症になりやすいこともしだいに明らかになってきました。

山田

肥満を防ぐためには、まず食べすぎないことですね。

白澤

そうです。一言でいえば、カロリー制限、ダイエットをすることです。食べすぎがよくないことは、サルやネズミ、ミジンコなどを使った実験で科学的にも証明されています。たとえば、2009年にアメリカのウィスコンシン大学の研究者が発表した「アカゲザルの研究」がよく知られています。人間に近い霊長類、アカゲザルを長期間、観察し続けた研究データです。

山田

どのような研究ですか。

白澤

アカゲザルのグループを「通常のエサを与えたグループ(38匹)」と、「エサの量を3割減らし、7割に制限したグループ(38匹)」の2つに分け、20年近く観察しました。その結果、通常のエサを与えたグループの生存率は、約63%だったのに対し、エサを7割に制限したグループは、約87%でした。さらに、驚いたのが病気の発生率です。通常のエサグループでは、がんを発症したサルは38匹中8匹、糖尿病は5匹、心臓病は4匹だったのに対し、エサを制限したグループでがんを発症したのは4匹、心臓病2匹で、糖尿病にいたっては0。その差は歴然としていました。

山田

エサの量を減らしただけで、こんなにも死亡率が低く、病気にもなりにくいとは、驚きですね。

肥満者いない100歳

白澤

肥満者いない100歳もっとショックだったのは、両グループの見た目の違いです。通常のエサを与えたサルは、毛並みはボロボロ、動作も緩慢、見るからに老化していた=右のサル=のに対し、エサを制限したサルのほうは、毛並みも艶々し、目つきも鋭く、動きも敏捷で、全体的に見ても実に若々しいのです=左のサル(いずれもイメージ図)。また、脳の老化も、通常のエサを与えたサルのほうが進んでいました。このように、カロリー制限をするだけで寿命や病気の発症、見た目に大きな違いが出るのです。人間だって同じで、健康で長生きしたければ、痩せていることが重要な要素になりますね。元気で自立している100歳の方に共通しているのは、皆さん太っていないことです。

山田

昔から「腹八分に病なし」とか「腹八分に医者いらず」とよく言います。「食べすぎや飲みすぎは体によくない」という意味ですが、自分では食べすぎが健康に悪い、とわかっていても目の前においしそうな料理が並ぶと思わず手が伸び、食べすぎてしまいます。健康のためには実際どのくらいの量を食べたらよいのでしょうか。

腹八分でも多すぎる

白澤

昔から食べる量の目安として「腹八分がよい」と言われていますが、本当に健康長寿を目指すのなら、八分でもちょっと多すぎる、と私は思いますね。カロリー制限をする場合、本来は適正なカロリー計算をして行うべきですが、一応食べる量の目安としては「腹七分」くらいにするのがよいと思いますね。年をとると、体の代謝能力も落ちて、エネルギー効率が悪くなります。それなのに、若いころと同じように食べていたら、消費しきれないエネルギーが体に蓄積され、太ってしまいます。

山田

でも、摂取カロリーを減らそうとするあまり、栄養バランスを崩してしまっては、せっかくの減量も意味がありません。カロリーの減らしすぎは、免疫力や骨密度の低下を招き、健康面にマイナスの影響を及ぼすともいわれています。カロリー制限をする場合、適正なカロリー量は、どのようにして算出しますか。

白澤

適正なカロリー量は、人によって違います。例えば、デスクワークが中心の人と肉体労働の人では、1日に使うエネルギー量もまったく異なり、必要とするカロリー量も自ずから変わってきます。適正なカロリー量がどのくらいかを算出するには、「1日のエネルギー所要量=1日の基礎代謝量×生活活動強度」の計算式に当てはめればすぐ出てきます。

山田

エネルギー所要量とは、1日にどれだけの栄養素やエネルギーを摂取したらよいかという指標のことですね。では、基礎代謝量、生活活動強度とは何ですか。

白澤

基礎代謝量とは、安静の状態で人が必要とするカロリーのこと。性別・年齢別によってカロリーが異なり、50~69歳の男性なら1日当たりの基礎代謝量は1350kcal、女性なら1110kcalとなります。一方、生活活動強度とは、エネルギー消費量からみた日常生活の活動の強さのことで、その度合いによって「低い」「やや低い」「適度」「高い」の4段階に分かれます。たとえば、60歳の女性で、あまり動かない人なら生活活動強度は、「低い」の1.3になります(下記表を参照)。60歳の女性の基礎代謝量は1110kcalですから、これを数式に当てはめれば、「1110(kcal)×1.3=1443(kcal)」。つまり、この女性の1日当たりのエネルギー所要量は、1443 kcalになりますね。

生活活動強度の区分(目安)

山田

なるほど。意外とわかりやすいですね。

白澤

昨年、101歳を迎えられた聖路加国際病院の理事長で、医師の日野原重明先生に伺った話では、先生はご自身の基礎代謝量に加え、医師としての日常業務、講演、執筆などの活動状況などを考慮し、1日の摂取カロリーを1300kcalと決められているそうです。70歳以上のふつうの男性が必要とするカロリーの摂取量が、1850kcalですから、先生の場合は、7割強の摂取量になりますね。まさに「腹七分」といってもよいでしょう。しかも、体重は今65kgで、20代の時(60kg)とあまり変わっていないそうです。先生は、今も多忙な毎日を送っておられますが、どうやら元気の秘訣の一つに、腹七分目の食事があると私は思っています。ぜひ、皆さんにも「20歳の時の体重+5kg以内」を目指していただきたいですね。

山田

私も「腹七分目」をぜひ心がけたいと思います。

毎日、体重チェック

白澤

それと、20歳の時の体重を目指すには、当時の写真を引っ張り出してきて、そのころのスタイルに戻ることを目標にしたらどうでしょうか。そのためには、毎日、体重計に乗る習慣をつけ、体重を量ったらそれを手帳などに書き込むことから始めてみるのも一つの方法です。また、その日に何を食べたかを記録しておくのも、効果的だと思いますね。

山田

食べすぎはよくない、とわかっていても食事管理は毎日のことでもあり、よほど強い意志がなければ根気よく続けるのは、結構難しいものです。その点、最近の血圧計や体重計、体組成計、歩数計などはメモリー機能や通信機能を持つ製品が増えてきました。日々の食事の記録をパソコンや携帯電話を使ってメールで送ってもらい、その結果をもとに管理栄養士がアドバイスして従業員の健康を管理する企業まであると聞きました。こうした支援サービスを利用すれば、食事の自己管理もしやすくなるでしょう。でも、せっかく減量に成功したとしても、それを維持するのは並大抵のことではありません。肥満の人で減量に成功しても、1年後には約60%の人が元に戻ってしまうとの報告もあるそうです。このようにリバウンドしないためにはどうすればよいですか。

白澤

確かに極端な食事制限や短期間で急激に体重を減らしたりすると、リバウンドしてしまうケースが多いですね。リバウンドしないためには、急激に体重を落とさないで1カ月に1kgとか、じっくり時間をかけて少しずつ痩せること。それと、食事と運動をバランスよく組み合わせ、生活のリズムを安定させることも大事でしょう。食事はおいしく食べて楽しみながら痩せたいものですね。

低栄養にも注意を

山田

カロリー制限をするうえで、気をつけなければならないのが、低栄養の問題でしょう。ダイエットに励むあまり、栄養不足に陥り、健康を害しては何のための減量なのかわかりません。特に年をとると、「粗食は低カロリーで健康によい」と思い込み、あっさりしたものばかりを好む傾向があるようです。そのため、肉類などのタンパク質や乳製品、油脂類などが不足がちになり、健康上いろいろな弊害が出てくる恐れもあるみたいですね。

白澤

その通りです。確かに高齢になると活動量が落ち、その分必要なエネルギー量も減りますが、その一方で、咀嚼力などが落ち、必要なだけの栄養が摂れない「低栄養」に陥る危険性も出てきます。だから、「やみくもに、ただ粗食にさえすればよい」というのは間違いで、高齢者が栄養不足に陥らないためには、食事は1日3食をバランスよく摂り、肉などの動物性タンパク質や油脂類なども摂取する必要があります。

白澤 卓二(しらさわたくじ)

1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。