山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十二回 「病気の予防こそ、医療が進む道ではないでしょうか?」

第十二回 「病気の予防こそ、医療が進む道ではないでしょうか?」

近代西洋医学が転換期を迎える中、遺伝子医学や再生医療などの進展によって現代医療が大きく変わろうとしています。
特に最近は誰でも遺伝子検査などが簡単に受けられるようになり、その人が将来どのような病気に罹りやすく、どうすれば予防できるかも少しずつわかってきました。
「統合医療」をテーマに進めてきた東大名誉教授の渥美和彦さん(87)と山田養蜂場代表・山田英生(58)の予防医学対談も今回が最終回。
私たちが自分らしく、幸福な人生を送るには健康であることが欠かせません。
そのためには、最先端医療の恩恵を受けながら自分の健康は自分で守る取り組みが日頃から求められています。

遺伝子検査などで、病気は早期発見から予知の時代へ。しかし最も大切なのは、生活習慣を見直し、自分で健康を守ること。

広がる遺伝子検査

山田

一昨年、遺伝子検査を受けた米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がんになるリスクが87%と診断され、予防のために両乳房を切除して大きな話題を呼びました。近年、唾液などから遺伝情報を読み取り、病気にかかるリスクを判定したり、体質などをチェックする遺伝子検査が広がっています。遺伝情報の活用は、これからの医療を大きく変える潜在力を秘めており、将来的には病気の治療や予防、生活習慣の改善にも役立つのではないかと、期待されています。

渥美

医療の世界が、病気の「治療」から「予防」へと流れが変わる中、新しい検査方法が次々と生み出されてきました。私は、「病気の予防」こそが、「これからの医療が目ざす道」と考えてきましたから、遺伝情報を活用した医療界の動きは大いに歓迎します。

山田

最近は、利用者がインターネットなどで注文し、送られてきた検査キットに、口の中の粘膜などを採って事業者に送るだけで、将来罹りやすい病気の傾向や遺伝的体質など数十項目がチェックできる検査も登場してきました。しかも、費用は比較的安いうえに自宅ででき、人間ドックのように時間もかかりません。そんな手軽さが受けて、遺伝子検査を受ける人が急増している、と聞きました。

病気の予知も可能な時代に

渥美

実は私も受けました。結果は「大腸がんになりやすい」というものでした。でも、解析結果は、蓄積された臨床的なデータから、その病気が発症する可能性を統計的に示したもので、確定的な診断ではありません。多くの病気は、先祖から受け継いだ遺伝子だけで発症するものではなく、生活習慣や環境など様々な要因が影響します。検査は、あくまでも病気の予防や対策に役立てるための情報くらいに考えておきたいですね。

山田

検査によっては、自分の抱える健康リスクや遺伝的体質を知ることができますし、それを機に食事や運動などそれまでの生活習慣を自分に合ったものに改めることによって、将来の病気の芽を摘むことができるようになるかもしれません。

渥美

その点が遺伝子検査の重要なところで、人それぞれ個人差のあることが検査によってわかれば当然、診断や治療法も変わってきます。このまま遺伝子医学の技術が進めば、病気の兆候を未病の段階で掴めるようになり、病気の早期発見だけでなく、病気そのものを予知できる時代がやってくるでしょう。個人個人の遺伝情報が分かってくれば、長い間、個人の体質を重視し、診断・治療してきた東洋医学の考え方も科学的に解明できる時代が来るかも知れませんね。

山田

遺伝子検査を受けてから、先生の生活習慣は変わりましたか。

渥美

「大腸がんになりやすい」との結果を聞いてから、日ごろの生活にはだいぶ気をつけるようになりましたね。例えば、大腸がんのリスクを高める肥満に注意し、高コレステロールの食事を避けるようにしました。検査を受けてからだいぶ日が経ちましたが、お陰様で今のところ大腸がんは見つかっておりません。

店頭で手軽に血液検査

山田

それはよかったですね。しかも、最近では、ドラッグストアやスーパーの店頭、さらに通信販売などでも手軽に血液検査ができるようになりました。利用者が専用の採血キットを使い、自分で指先から微量の血液を採取して提出すれば、専門会社が検査し、数日後に検査結果を受け取れる仕組みになっています。検査では、血中の脂質や血糖値、肝機能など8項目が測定可能、と聞きました。予約は不要で費用も安く、時間も10分〜15分程度と短いため、主婦や高齢者、多忙で病院に行く時間が取れない人などには、とても喜ばれているそうです。

渥美

それは、便利ですね。今は、健康への関心が高まっている折でもあり、国の規制緩和で医療機関以外でも、こうしたサービスが受けられるのはとても画期的なことだと思います。特に高血圧や糖尿病、脂質異常症などが気になる人の中には、こうした血液検査を受ける人が増えるのではないでしょうか。

山田

先生は、これからの人間社会は、「健康・長寿」が共通の価値観になる、とおっしゃっていますが…。

「かかりつけ医」を探そう

渥美

人間、働くにしても、ボランティアや趣味を楽しむにしても、心身が健康でなければ、何もできません。人が幸福な人生を送るうえで、健康は最も基本的な条件といってもよいでしょう。人生は単に寿命が長ければよいというものではなく、QOL(生活の質)を保つことが大切です。その人がいかに健やかで自分らしい生活を送れるかが、これからの共通の価値観になってくるでしょう。そのためには、病気にならないための予防医学と、「自分の健康は自分で守る」というセルフケアの考え方がとても重要になってきます。

山田

そう思いますね。先日も、米国・ワシントン大などの研究チームが行った「健康寿命」に関する調査で、日本の男性の健康寿命が71.11歳、女性75.56歳で、いずれも世界188ヵ国中トップだったことが英国の医学誌「ランセット」に掲載され、話題を呼びました。平均寿命が世界一である点を考えれば、不思議ではありませんが、ただ、平均寿命に比べると、それぞれ10歳ほど短いのが現状です。この期間は、介護や寝たきり、認知症などさまざまな困難を抱えています。人生最晩年の約10年間を健康で自分らしく生きるためにも、食事や運動、生きがいなど日ごろの生活習慣が特に大切になってきますね。

渥美

その通りです。それと、病気を防ぐためにも人間ドックやがん検診などの健康診断は、毎年1度は受けていただきたいですね。できれば、同じ病院で受けることをお勧めします。同じ病院なら過去のデータが残っており、その後の経過もわかりやすく、安心できます。定期的な健康診断は、病気の早期発見につながるし、早い時期に治療すれば治癒の可能性もそれだけ高くなります。それと、もう一つは、身近に何でも相談できる「かかりつけ医」がいると安心ですね。

山田

ちょっと風邪をひいたり、体調が悪かったときなどに気軽に診てもらったり,相談に乗ってもらう医師のことですね。なぜ、かかりつけ医がいると安心なのですか。

渥美

毎回、同じ医師にかかるようにしておけば、その人の病歴や体質などを理解したうえで診察してもらえます。それと、緊急のときにも、すぐ診てもらえ、人間ドックなどで深刻な病状が見つかった場合も、総合病院などを紹介してくれます。

山田

確かにかかりつけ医がいれば、いざというときも安心ですね。では、どうやってかかりつけ医を探せばよいですか。

渥美

まず、診療科が多く、毎日混み合っているような大病院は避け、できるだけ地元の小さなクリニックや診療所を探しましょう。できれば、地域で代々開業している町医者がいいですね。患者さん本人だけでなく、以前から両親や祖父母も掛っていたなら、家族の病歴や体質なども熟知しており、気軽に相談しやすく、安心して任せることができますから。

かかりつけ医の存在が、普段の健康づくりへの意識を高める。

自分の健康は自分で守る

山田

なるほど。病気の予防や重症化を防ぐためにも、身近なかかりつけ医がいると安心ですね。今、ストレスの増大や生活習慣の乱れなどから現代人の健康不安が増幅しています。加えて、近年の高齢化や医療の高度化で医療費は今後、ますます増えるでしょう。しかしながら、医療現場では相変わらず治療中心で、予防医学への道は、「なお遠し」の感がしてなりません。それと、私たち患者側にも、「病気になったら医師に診てもらえばいい」と安易に考える傾向があるような気がします。国民一人ひとりが、「自分の健康は自分で守る」くらいの覚悟が必要だと思いますね。

渥美

その通りです。確かにこれまでの医学は、病気を治すことに重点が置かれていましたが、これからは病気にならないよう予防の段階から健康を支えることが「真の医療」だ、と私は考えています。そうした医療が実現されれば、健康寿命が延び、医療費も抑えられるでしょう。その結果、私たち一人ひとりがこの地球に生まれてきた使命を果たし、幸せに暮らせる社会がやってくるのではないでしょうか。

山田 英生(やまだ・ひでお)

山田 英生(やまだ・ひでお)

山田養蜂場代表:1957年岡山に生まれる。1983年に家業の養蜂場を継ぐも、厳しい経営環境の中、活路を通販に求め、現山田養蜂場を築く。予防医学の観点から健康食品の開発をしている。みつばち健康科学研究所・免疫分析研究センターなどの機関を持ち、研究活動に力を入れている。また、自然保護や教育メセナに積極的に取り組んでいる。

渥美 和彦(あつみ・かずひこ)

渥美 和彦(あつみ・かずひこ)

(財)渥美和彦記念未来健康医療財団理事長・日本統合医療学会名誉理事長・東大名誉教授:1928年大阪生まれ。1954年東大医学部卒業後、人工心臓やレーザー治療などの研究に取り組む。1984年、人工心臓を装着したヤギの生存世界記録を達成。東大医学部教授などを経て現職。