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山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十一回 「震災で学んだことを、医療でも実践すべきではないでしょうか?」

第十一回 「震災で学んだことを、医療でも実践すべきではないでしょうか?」

2011年3月の東日本大震災は、医療に対する日本人の意識を大きく変えるきっかけになりました。
地震や津波で多くの医療・介護施設が倒壊し、電気や水道などライフラインの寸断で最新の医療機器も本来の力を発揮できず、医療システムの脆弱さが浮き彫りになりました。
この震災を機に治療から予防へと医学の流れは変わり、贅沢な医療を見直す機運も高まってきました。
日本の医療が転換点を迎えた今、これからの医療はどうあるべきか。
震災直後、被災地に入った統合医療の第一人者で、東大名誉教授の渥美和彦さん(86)と山田養蜂場代表・山田英生(58)がその思いを語り合いました。

震災で思い知らされた地球資源を贅沢に使う医療システムの脆弱さと限界。これからの医療は「統合医療」がヒントに。

先端医療の脆さに愕然

山田

4年前の東日本大震災による死者・行方不明者は2万人を超え、建物の被害は全・半壊合わせ40万戸以上に達しました。今なお、多くの人たちが、避難生活を余儀なくされています。また、地震や津波の直撃を受け、多くの医療機関や福祉施設が倒壊したり、流失したと聞きました。この大震災は、日本にとって大きな節目になったと思いますが、医療にも何らかの影響を与えたのでしょうか。

渥美

この震災で、日本の医療システムの脆さが目立ちましたね。私は震災直後、被災地に入りましたが、苦しむ人を目の前にして医者として何もできず、ただ自らの無力さを思い知るばかりでした。避難に伴う混乱の中、検査機器を使おうと思っても停電のため使えず、電子カルテや聴診器が津波で消失した医療機関もあった、と聞きました。医薬品などの物資も被災地の隅々まで行き届かないところもあり、手に入ったとしても、断水で薬を飲むための水さえない有り様でした。

山田

本当にひどい状況でしたね。

渥美

どんなに高度な検査機器や治療設備があっても、肝心の電気や水、ガスといったインフラがなければ、何の役にも立ちません。これほどまでに進んだ現代の医療技術をもってしても、患者さんを救うことができない医療の現実に愕然としました。

山田

被災地では震災後、仮設住宅などでの環境変化やストレス、運動不足などから体調を崩し、うつ病やアルコール依存症などに罹る人が多く、中には認知症や寝たきりになる人も増えている、と聞きました。また、体調悪化などにより、多くの高齢者や重い症状を抱えた患者さんが亡くなるという痛ましいニュースがありました。

治療に成果 代替医療

渥美

震災直後、避難所で暮らしていた被災者の中には、心因性の高血圧症や関節痛、腰痛、頭痛などを訴える人がたくさんおられました。プライバシーのない狭い場所で毎日、過ごしているうちに心が張りつめ、心身の不調を招いたのでしょう。そんな中、漢方や鍼、灸、あん摩、そしてヨガ、マッサージなどがたいへん治療に効果をあげた、と聞きました。こうした代替医療は、心身のバランスを整えてくれるため、不自由な生活によるストレスで体調を崩された方には、とても有効だったようです。

山田

そう思いますね。未曾有な被害を出した東日本大震災は、自然の脅威をまざまざと見せつけると同時に、人間の弱さも浮き彫りにしました。この震災を機に、日本人の価値観も大きく変わったように思います。

渥美

その通りです。人間は「無常」であり、必ず「死ぬ存在」であること。そして、地球の資源は有限であることを私たちは、学びました。

山田

そして、生きることの意味、家族や友人との関係、地域のあり方などへの意識も変わるきっかけになったと思います。

渥美

医療も決して例外ではなく、大きな転換期を迎える契機となりました。その要因として3つあります。1つは、それまでの治療中心の医療から、病気にならないための「予防医療」に重心が移ったこと。2つ目は地球資源を大量に消費する贅沢な医療から、資源の有効利用を重視した「エコ医療」に転換したこと。3つ目は、自分の健康は自分で守るという「セルフケア」の時代に入ってきたことですね。そして、こうした医療に変えていくには、これまでの西洋医学だけでは限界があり、これを補完する伝統医学や代替医療を組み合わせた「統合医療」への転換が欠かせない、ということが明確になりました。

増えるロボット手術

山田

未来の医療を考えるとき、やはり統合医療がキーワードになるわけですね。この3つの中で、「エコ医療」は、聞き慣れない言葉ですが、どんな医療ですか。

渥美

今の医療は、最新の検査機器を使った診断やロボットによる手術などが広く行われるようになりました。がんなどの治療ではロボットを使った手術も珍しくありません。例えば、米国製の手術支援ロボット「ダヴィンチ」による手術は、内視鏡手術の一種であり、前立腺がんや胃がんなどでよく使われます。従来の開腹手術のような大きな切開をせず、体の数か所に穴を開けるだけでよいため、傷口が小さくて済みます。そこに内視鏡カメラや鉗子を差し込み、執刀医が3D画像を見ながらアームを操り、遠隔操作で患部の切除や縫合を行うものです。

山田

ロボットによる手術は、人間の手よりも緻密といわれ、届きにくい体内の深部にも届くうえ、動作も正確でその分痛みも少なく、術後の回復も早いと聞きました。患者さんの体への負担が少なく、従来の手術法に新たな選択肢が加わったことで、治療のレベルはさらに上がるでしょう。その一方で、ある程度は機械に任せることなので、安全性などの点で不安が残り、患者さんの費用負担も馬鹿にならない、と聞きました。

エコ医療で医療費削減

渥美

医療費についていえば、例えばダヴィンチによる前立腺がんの全摘出手術は、2012年4月から保険が適用されましたので、患者さんの費用負担は従来の手術とそれほど変わりません。でも、それ以外の手術への保険適用は認められておらず、高額な負担とならざるを得ないのです。何しろ、医療機関がダヴィンチ1台を導入するにしても数億円と高いため、誰でも簡単に受けられる治療ではありません。このように現在の医療は、あまりにも高度で機械化し、お金のかかる贅沢な医療になっているのが、実態です。

国民医療費の推移

山田

先生が目指すエコ医療とはどんな医療ですか。

渥美

私たちが提唱するエコ医療は、エコロジカルにして、エコノミカルな医療のこと。つまり、「自然や環境と調和し、コストのかからない医療のこと」をいいます。地球資源は無限ではなく、医療資源も例外ではありません。これからは、治療法とともに薬や検査の仕方などを見直して、お金のかからない医療への転換を図る必要がありますね。その柱となるのが、統合医療への切り換えといっても過言ではありません。その目指すところは、人の持つ自然治癒力に働きかける治療であり、「人間中心の医療」に軸足を移すべきでしょう。エコ医療を進めれば、国民医療費の削減はもちろんですが、地球規模の課題である人口増加に対応した医療の実現も可能となります。

山田

それには、まず私たちの意識を変えなければなりませんね。一人ひとりが病気にならないよう自ら健康維持を心がけることが大事だと思います。

新しい健康産業を創る

渥美

それこそ、これからの医療に欠かせない「セルフケア」の考え方で、簡単にいえば、健康の自己管理です。現代は、食べたいだけ食べられる飽食の時代であり、人間に代わって機械が何でもやってくれる豊かで、便利な時代です。その一方で、現代人は多くのストレスを抱え、生活習慣病やこころの病などで悩んでいます。こうした時代であればなおさら、自分で自分の健康を守るセルフケアが大切になってきます。

山田

医師や病院の世話にならず、自分でできることといえば、たくさんあります。例えば、正しい食生活やウォーキング、ストレッチなどの運動、さらに、タバコやお酒などの過剰な摂取を控えるなど日々の生活の中で実行できることは少なくありません。

渥美

その通りです。今、世界は不透明、不確実な時代であり、外交、経済、環境、医療などの分野でも極めて困難な問題が山積しています。こうした難問を解決するためには、「地球は一つであり、格差のない社会を実現する」という視点が大切になってきます。誰もが健康で長生きできる社会がやってくれば、「平和で幸せな社会」につながると考えています。私は、そんな社会の実現を目指し財団を作って活動中ですが、そのために、大切な支えとなるのが医療であり、中でも予防医学、エコ医療、セルフケアの3つは、これからの医療に欠かせない重要なテーマになると思っています。

山田 英生(やまだ・ひでお)

山田 英生(やまだ・ひでお)

山田養蜂場代表:1957年岡山に生まれる。1983年に家業の養蜂場を継ぐも、厳しい経営環境の中、活路を通販に求め、現山田養蜂場を築く。予防医学の観点から健康食品の開発をしている。みつばち健康科学研究所・免疫分析研究センターなどの機関を持ち、研究活動に力を入れている。また、自然保護や教育メセナに積極的に取り組んでいる。

渥美 和彦(あつみ・かずひこ)

渥美 和彦(あつみ・かずひこ)

(財)渥美和彦記念未来健康医療財団理事長・日本統合医療学会名誉理事長・東大名誉教授:1928年大阪生まれ。1954年東大医学部卒業後、人工心臓やレーザー治療などの研究に取り組む。1984年、人工心臓を装着したヤギの生存世界記録を達成。東大医学部教授などを経て現職。

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